国語科の緒方です。

「そんなことをしていったい何になる」という部分の読み方で「揺れて」います。

当然、生徒も揺れていて、「なにになる」と読む生徒の考えでは、「なん」は話し言葉・幼児語・方言であって、正式な読み方は「なに」だと認識しているので、改まった表現のときは必ず「なにになる」と読んでいるのだそうです。どちらでも読める場合、勉強の時は必ず「なに」と読んでいればまず大丈夫と答える生徒もいました。

とても微妙な問題ですね。もともとは何の訓読みは「なに」だけだったのに、音便変化(テ・デ・タ・ダ・タリ・ダリの前は「ん」になる)で「なん」と読むようになり、さらに音便化するケースが増えていったのではないかと私は勝手に考えていました。

きちんと答えなくてはならないことですが、おそらく学校教育ではとりあげてくれない内容です。小学校では原則は教えずに例を並べるだけ、中学校では最小限の国文法だけ、高等学校では国文法は教えないからです。ましてや「揺れて」いる語となると、なかなかはっきりと言い切れない問題なので公教育の国語教育でとりあげることはまず難しいでしょう。

この問題の比較的明解な解答としては

「何」の次にくる音が

(1)タ行・ダ行・ナ行 の三行ではじまれば「なん」

(2)その他では「なに」

となります。

*(1)「なん」と読む例 次にくる音が タ行・ダ行・ナ行

何と言っていいか分からない

いったい何だい

何でもいいよ

何になる

何年になりますかね

*(2)「なに」と読む例 次にくる音が タ行・ダ行・ナ行以外

何か分からないことがありましたら、

何から何までお世話になりっぱなしで

一体何サマだと思ってるんだ

あなたはいったい何者ですか

この漢字は何篇ですか

何もおかしいことは無い

(3)例外 what の内容ではなく、数字の答えを期待している時は「なん」と読む

*(3)例外の例 次に来る音が タ行・ダ行・ナ行 の三行以外でも「なん」と読む例

ご利用は何階でしょうか

これ何枚あるか数えてください

それは第何号ですか

 

『NHK新用字用語辞典第3版』には、「ナン」という読み方は「特別なものか、または用法のごく狭いものである」と書かれています。このことから「ナニ」と読む場合は、「どんな(もの)」(=what kind of、which)という意味で用いられるのが一般的で「質」にかかわると言えます。また、「ナン」と読む場合は、「いくつ」(=how many)という意味のものが多く「数」にかかわる、と言えます。

 

A「何色のボールペンですか。」

なんしょく」と読むのと「なにいろ」と読むのとでは答えが変わります。

B「長野県に接しているのは何県ですか。」

これも「なんけん」と読むのと「なにけん」と読むのとでは答えが変わります。

C「生まれは何年ですか。」

これも「なんねん」と読むのと「なにどし」と読むのとでは答えが変わります。

さらに、

D「何で東京に行くのですか。」

これは次に来る音が ダ行ですから普通は「なんで」ですが「なんで」と読むと、①何が原因で(=なぜ)と、②何を手段として(=どうやって)のどちらにもとれます。この場合「なにで」と読むと手段を尋ねる(=何を使って)という意味になりますので、手段・方法を尋ねる時は、わかりやすくするために「なにで」と読む人がいるのです。

E「その地方に住んでいるのは何人ですか。」

これは「なんにん」と数を尋ねているのか、「なにじん」と人種を尋ねているのかどちらにもとれますので文脈で判断することになります。さらに何人を「なんぴと」と読む例もあります(場合によっては「なにびと」、まれに「なんびと」と読んでいる例があり、「揺れて」いる最中の語だとわかります)。

この他、実際の用例をみると、レストランでウエイトレス(ウエイター)の言葉の

F「お客様、ご注文は何になさいますか。」

これは「なん」と読むと「なさいます(なさります)」という敬語にそぐわないのでは「なに」と言わないと失礼ではないかと感じる人が多いようです。このケースが象徴するように「公的」の場合は「なに」が一般的で、話し言葉などの「私的」の場合はどちらでもよいと感じている人が多いようです。

G方言 西の方では「なん」が多い(具体的な数字を挙げることができませんが)

「何も→なんも」「何だ→なんや・なんか」「何をば→なんば」「何という→なんちゅう」

【とりあえずの結論】

「何」の次にくる言葉が タ行・ダ行・ナ行 の三行ではじまれば「なん」

ただし、上品・丁寧・改まった感じの時は「なに」

★冒頭の「何になる」は「なん」とルビをふりました

★武島羽衣作詞の「花」の3番の最後では「ながめをなにたとうべき」でした

この記事を書いた人

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緒方克彦
担当科目:英語・国語
担当校:伊勢原校・成瀬校

理系が得意な私は医学部志望でしたが、小学校の教師になるために文系に転向して初等教育学科に進学。なぜか新聞社の内定をもらいましたが、選んだ道は塾講師。それから早30年。人生、何があるか分かりません。だから、若いうちは幅広く勉強することが大切だと思います。いろいろなことを吸収して、自分を磨きましょう。