自転車のことを「チャリンコ」と言い始めたのは、どうやら関西であるという説があった。この「チャリンコ」という愛称はあっという間に日本を席巻して、「チャリ」という短縮形でも十分に伝わるほどの市民権を得るほどになった。さらにミニサイクルが登場し、その乗り易さからお母さんたちの間に流行ると、ミニサイクルを「ママチャリ」という呼ぶようになったり、原動機付き自転車のことを「原チャリ」と呼ぶようになったりと数々の発展形を生み出していった。
しかし、なぜ自転車のことを「チャリンコ」と言い始めたのかについて詳しく知っている人はほとんどいないかもしれない。たしか、ベルを「チャリン」とか「チャリチャリン」とか鳴らしながら走るからだという説が子どものころ、ひそかにまかり通っていたような記憶があるのだが、それが真実だとは、当時、誰もが思っていなかった。関西から言い始まったという説については、当時、そんなことを言う人はきわめて少なく、判断する根拠もないせいか、もう完全に謎のままであった。それに加え、「チャリンコ」というのは関東では不良が使う言葉という認識があったので、この言葉が一般的になったのはだいぶ後だったと思う。たぶんテレビなどで広まった言葉のひとつだろう。
最近、気になるのは、「韓国語では自転車のことを『チャジョンコ』と言い、それが『チャリンコ』に訛って関西で一般化した」という説である。韓国語が訛った外来語であるというからには、それだけ韓国の人が多くいる地方でなくてはならない。実際、関東よりも関西の方が韓国の人が多いので、関西から始まったという説にも合致するように思えるのだ。また、韓国語はよく隠語にもなっており、そういう例は関西に端を発する場合が多いことから考えても、説得力のある説なのである。では、なぜ「チャジョンコ」が「チャリンコ」になったのかについては全くわからないが、「チャジョンコ」という韓国語を知らない子どもたちなら、ベルの「チャリン」という音と重ねて「チャリンコ」と聞き間違えた、あるいは勝手に解釈して「チャリンコ」という語を使い出したのかもしれない。
この前、街で中学生が「チャーンコ」と言っているのを聞いた。また、NHKの「こころ旅」では、火野正平氏が自分の自転車のことを「チャリ男」と呼んで擬人化している。旅の相棒ということなのだろう。こうしてみると、変遷はさらに続くのかもしれない。
ちなみに名古屋近辺では、自転車のことを「ケッタ」と呼ぶ。これは子供たちの間で、自転車のことを「ケッタリングマシン」呼ぶようになり、それが短縮されて「ケッタ」となったそうだ。たぶん昭和40年代のことではないかと思うが…。
「蹴る」という日本語が「サイクリング」とくっついて、さらに自転車のことを表す「オートバイ」や「マシン」に見立ててくっついたのだろう。ちょっと無理やり感のある強引な複合がかえっておもしろくて、中京の子供たちの間で爆発的に広まったのではあるまいか。
話は飛ぶけれど、「自転車」のことを「じてんしゃ」ではなく、「じでんしゃ」と発音する子どもが最近増えているような気がする。濁音の後を濁音にするのは連濁という自然な現象だが、「地球の自転」のときは「じでん」ではなく「じてん」と全員が発音している。乗り物の「電車」と「自転車」の発音の混同が起こっているのだろうか。
この記事を書いた人

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担当科目:英語・国語
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理系が得意な私は医学部志望でしたが、小学校の教師になるために文系に転向して初等教育学科に進学。なぜか新聞社の内定をもらいましたが、選んだ道は塾講師。それから早30年。人生、何があるか分かりません。だから、若いうちは幅広く勉強することが大切だと思います。いろいろなことを吸収して、自分を磨きましょう。
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